教区公報「如大地」 「提言」原稿

 故Gさんから「ハンセン病に関する懇談会委員」を引き継いで2年になります。講演を聞く不特定多数の一人であった私が、回復者の方々と直接語り合うご縁をいただいたのは、実に不思議なことでした。
 これまで学んできた真宗の教えを、見直させられることが何度もありました。
 長い隔離政策の下、感謝して心静かに過ごすことが「お国のため」であるという教化が療養所のなかで行われました。そうした教えのおかげで厳しい環境を生きることができたとおっしゃる方もいます。しかし、それは人間として生きることを剥奪する暴力(強制隔離、強制労働、強制堕胎)に抵抗することを、阻む働きをしました。
 また、慰安教化には「かわいそうな人を救ってあげる」という教化者意識が根底にあります。救う側にいるつもりの人は、救われる側にいるとみなしている人を、同情すべき哀れな人として目線の下に固定しました。救う側と救われる側という二つの立場は入れ代わることがありません。御同朋御同行精神の喪失は国家の暴力を追認し、人々に血の涙を流させました。
 それに対して、差別と偏見の只中から名告りを上げ、人間はだれもが生まれながらに尊いという信念の下に国に対する裁判を勝ち抜いた回復者の姿には圧倒されます。親鸞聖人が法然上人から受け継ぎ、その御生涯で確かめられた浄土真宗は、同じように、一人の「いのち」を大切にする教えであったと思います。富山藩合寺令による廃仏毀釈に抵抗した人々、米騒動に立ち上がった水橋、滑川、魚津の人々。郷土の真宗門徒たちのことが思われます。
 90年にもおよぶ隔離政策は、療養所と社会の関係を遮断し、この問題を見えにくくしています。富山のような療養所から離れている地域では、療養所の存在はおろか、ハンセン病でさえあまり知られていないのが実情です。あるいは、もうこの問題は終わっていると思っている方もいるでしょう。
 しかし、「私さえ黙っていれば家族に迷惑はかからない」と里帰りを断られる方が、今も療養所にいらっしゃるのです。昨年の6月、岡山県にある国立療養所、長島愛生園を訪れ、富山県出身の方に別院での講演をお願いしました。「真宗」2006年9月号「ハンセン病は今」に手記を掲載していらっしゃる方です。しかし、断られてしまいました。富山では回復者に対する偏見はなくなっていないのではないか、自分が話せば家族が世間から差別を受けるのではないか、という不安をお持ちになっているのだと思います。
 人の差別心がある限り、この問題は終わりません。ハンセン病問題の現状を多くの方々に知っていただき、課題を共有したいと思っています。
ハンセン病問題に関するイベント紹介
3月2日 2時より
「新・あつい壁」上映会
会場 富山県高岡市生涯学習センター
部落解放にとりくむ富山県連絡会議・ハンセン病問題ふるさとネットワーク富山の共催です。
3月4日~6日
「第7回真宗大谷派ハンセン病問題全国交流集会」
会場 大谷派高山別院 高山グリーンホテル
テーマ 「人間に帰ろう」 ―高山で出会う私のハンセン病問題―
回復者・宗派関係者・一般市民が一堂に集う交流の場として、開催されています。今回は観光地高山での大規模な市民参加型交流会となります。
4月18日
「ハンセン病に学ぶつどい」
会場 富山東別院本堂
講師 金泰九さん(岡山県長島愛生園在住)
講題 「多くの人との連帯のなかで生きたい」
教区御遠忌事業の一環として開催します。講演とパネルディスカッションにより、富山での里帰りの現状や療養所将来構想問題などについて学びます。富山出身の回復者にも参加を呼びかけています。
5月10~11日
第4回ハンセン病市民学会
会場 東京都多磨全生園
学生、教育者、ジャーナリスト、研究者、宗教者など、さまざまな市民が集まる全国大会です。2日間で延べ1000人規模の参加があります。首都圏市民の会のS氏が中心となり、開催に向けて尽力しています。
6月
ハンセン病訴訟勝訴7周年記念シンポジウム
会場 富山市民プラザ
富山の本願寺派、大谷派、医療関係者、市民による、恒例のシンポジウムです。

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